大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)768号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人坂牛直太郎、同臼居直道の上告理由第一点および第二点について。

原審の適法に確定した事実関係によれば、訴外阪和興業株式会社(以下単に阪和興業という。)と上告人との間の売買契約は、上告人と訴外株式会社進藤義雄商店(以下単に進藤商店という。)との間の売買契約を履行するために、また、後者は、進藤商店と被上告人との間の売買契約を履行するために、それぞれ締結されたものであつて、右各売買契約の目的物たる鋼材の品種、数量、その引渡期限および引渡場所は同一に定められていたというのであるから、右各売買契約のうち阪和興業と上告人との間の売買契約の目的物が特定するときは、その余の売買契約の目的物も、それと同時にかつ当然に特定するに至るものと解すべきである。そして、阪和興業と上告人との間の売買契約の目的物は、阪和興業が、訴外大山運輸株式会社および同日本通運株式会社を介して、右契約により定められた品種、数量の本件鋼材をその引渡場所たる室蘭市所在訴外村上鉄筋株式会社(以下単に村上鉄筋という。)の土場まで運送、搬入し、村上鉄筋がこれを受領しうべき状態においたときに、特定するに至つたものであることは、原審の判示するとおりであり、また、上告人も争わないところである。

ところで、およそ不特定物の売買においては、特段の事情のないかぎり、その目的物が特定すると同時に、当然にその目的物の所有権は売主から買主に移転するものと解するのが相当である(当裁判所昭和三一年(オ)第二五二号同三五年六月二四日第二小法廷判決、民集一四巻八号一五二八頁参照。)から、前記各売買契約の目的物たる本件鋼材の所有権は、阪和興業と上告人との間の売買契約の目的物が前記のように特定し、それに伴い、その余の売買契約の目的物も特定するに至ると同時に、当然に、阪和興業から上告人および進藤商店を経由して被上告人に移転したものというべきである。そして、この結論は、村上鉄筋がその後主観的にだれのために右鋼材を受領したかによつては、何らの影響も受けないものと解すべきである。

したがつて、本件鋼材の所有権が昭和三九年五月二二日当時すでに被上告人に移転していたことを前提として、上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、または、原判決を正解しないで、これを非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例